聴力には問題がないのに、人の話が聞き取れない、聞き取りにくい人たちがいます。
そのためにうまくコミュニケーションがとれなかったり、大切な話が理解できなかったりする、とてもやっかいな症状です。
聴覚情報処理障害(APD)といわれるもので、私と2人の子どもたちにもその傾向があります。
今回は、私たちの体験や困りごとを含めながら聴覚情報処理障害(APD)について書いていきます!
目次
聴覚情報処理障害(APD)ってなに?
聴力には問題がなく音として聞き取ることはできるのに、意味のある言葉として聞き取ることが困難である状態です。
常に聞き取れないわけではなく、聞き取りにくい環境下で、意味のある言葉として聞き取れなくなってしまいます。
理解できない言語を耳にしたときに似ています
聞き取りにくさという点で難聴と似ていますが、難聴と聴覚情報処理障害は異なるものです。
要 因 | 症 状 | |
聴覚情報処理障害 | 脳や中枢神経に問題があるといわれている | 音は聞こえている 言葉として聞き取れていない |
難 聴 | 外耳・中耳や内耳・脳に問題がある | 音が聞こえない・聞こえにくい |
まだ明確な診断基準はなく、治療法もありません。
そのため、聴覚情報処理障害の診断をくだす医療機関は今のところほとんどないようです。
私たち家族も聴覚情報処理障害の症状を自覚していますが、診断がでているわけではありません。
聴覚情報処理障害(APD)の症状は?
- 早口や小さな声が聞き取りにくい
- 聞き間違いが多い
- 繰り返し聞き返してしまう
- 騒がしい場所では聞き取りがさらに困難になる
- 話を長時間にわたり聞き続けて理解するのが難しい
- 耳からの情報に弱く、口頭での説明は理解しにくく忘れやすい
- 指示を聞き逃してしまう
- 電話の声が聞き取れないことがある
- テレビの声が聞き取れないことがある
症状は様々ありますが、とにかく言葉の意味が理解できなくて困ることが多々あります。
「はなしを聞いていない」、「やる気がない」と誤解され、心身ともに疲弊してしまうことも。
わが家は3人それぞれに聞き取りにくさがあるのですが、その症状は少しずつ違います。
母・しまの場合
私はすべての症状があてはまります
家族の中で聞き取りが1番苦手なのが私です。
- 声が小さい
- 口の開きが小さく、もごもごとくぐもった声で話す
- 口元が見えない
- 多くの声が重なって騒がしい
上記のような環境下では、言葉の意味が聞き取れなくなる場合があります。
意味を読み取ろうとしても、理解できない音が頭の中を通り抜けていくだけで、なんの言葉も拾えないのです。
大抵の場合、聞き返しても意味を理解することはできません。
相手が話し方を変えてくれたり(大きな声ではっきりと話す、ゆっくり話す等)、静かな場所に移動するなど、聞き取りにくい状況を変えない限り、なんど聞いても理解できない音が頭の中を過るだけです。
家族や気心の知れた間柄であれば「もっとはっきりしゃべって!」とお願いして聞き返すこともできるのですが、そうでない場合にはお願いすることが難しいこともあります。
おそらくこう言っているんだろうな、とそれまでの話の流れや状況から判断して返事をすることも多いです。
それでうまくいく場合もありますが、怪訝な顔をされたり、微妙な間が生まれてしまうこともしばしばあります。
一方で聴覚は鋭く、みんながわからないというようなとても小さな音にも気がつきます。
聴覚情報処理障害とは異なりますが、ミソフォニア(音嫌悪症)の傾向があり、繰り返される音に拒絶反応が出てしまうことがあります。
長男・あさりの場合
ぼくが1番困っている症状は 「電話の声が聞き取れない」です
私と違い、普段の会話の中で聞き取りにくいということはあまりないようです。
ただ、いつもと違う環境や状況で不安という要因が加わると、口頭での説明が理解しにくくなり、指示が入りにくくなってしまいます。
そうなるとより一層不安が強くなってしまい、頭痛や腹痛などの体調不良にもつながってしまうんです。
本人が1番聞き取りにくいと感じている電話の声も、不安が大きく関係しているようです。
家の固定電話が鳴ってもほとんど出てくれません
だって電話こわい!(なに言ってるかわかんない!)
次男・いくらの場合
小さなころは知らない言葉がたくさんあるため聞き間違えて覚えてしまうことがたくさんありました。
サンドル!
サンダルだよ
オカリオン!
リカオンね。なんか一文字増えてる
オサンラン!
お皿だね!言いにくくない⁉
大きくなり語彙力が増えるにしたがって聞き間違えて覚えてしまうことは少なくなりました。
しかし、学校の授業など、話が長く複雑になるにつれ聞き取れないことが増え、不安になることがしばしばあったようです。
聞き取れなかったところをクラスメイトにたずねることも増え、「ちゃんと聞いていないからわからないんだよ!」と怒られることも。
通常クラスから支援クラスに移籍してからは先生の指示もわかりやすく、指示が聞き取れないことは少なくなりました。
普段の会話や電話では聞き返すことが度々あります。
ん?
聴覚情報処理障害(APD)の要因は?
聴覚情報処理障害には様々な要因があります。
- 発達障害
- 認知的な偏り(ワーキングメモリーの低下等)
- 言語環境
- 脳損傷
- 心理的な問題
- 精神疾患
- その他
なかでも発達障害による要因が50%以上を占めています。
障害者手帳の取得はできる?
聴覚情報処理障害(APD)は聴覚障害には当てはまらないため、「身体障害者手帳」を取得することはできません。
しかし、うつなどの精神疾患や、発達障害を併発している場合には「精神障害者保健福祉手帳」を取得できる可能性があります。
これはあくまでも精神疾患や発達障害による取得となります。
困っているなら支援を求める
支援や理解を求めるのは勇気がいることです。
聴覚情報処理障害のように診断をつけにくいものであれば、なおさら支援を求めにくく感じてしまいます。
困難はあるけれど診断がでていないものについて、どのようにして周りに支援を求めたらよいのか。
以前、子供たちが通う思春期外来の医師にたずねたことがあります(聴覚情報処理障害のことではありませんでしたが)。
医師は、「やる気や努力ではどうにもならず困っているのなら、それは本人にとって障害なのだから、障害なのだといって支援を求めてもよい」とおっしゃいました。
聴覚情報処理障害の症状があり職場や学校で困っているならば、まずは困っている状況を伝えて知ってもらいましょう。
そのうえで、どうすれば症状を改善できるのか、困らずに済むのかを具体的に伝えることが大切です。
ぼくは、高卒認定試験の受験で「注意事項等の文書による伝達」をお願いしました
いくらの場合は、通常クラスから支援クラスに移籍し、
- 少人数で静かなクラス
- 先生が名前を呼んで注意を引き付けてくれる
- 何度でも聞き返せる
など安心できる環境になったおかげで、聞き取りにくさによる困難は感じていないようです。
なかなか支援を得にくい場合には、精神科や心療内科で医師に相談すると良いでしょう。
昨今は精神科や心療内科を受診することは特別なことではありません。
それでも心療内科や精神科は敷居が高いと感じている方や、忙しくて足を運べないという方は、オンラインカウンセリングサービスを利用するという選択肢もあります。
精神科医によるオンライン診察や診断書の発行、臨床心理士・公認心理士によるオンライン心理療法ができるようです。
\医師監修のオンライン/
まとめ
- 聴覚情報処理障害(APD)は聴力には問題がないが、言葉の意味を理解して聞き取ることに困難がある。
- まだ明確な診断基準がなく、診断できる医師がほとんどいない。
- 「はなしを聞いていない」、「やる気がない」など誤解を受けることがある。
- 治療法はないが、適切な支援で症状を軽減することができる。
まだまだ認知度が低く理解されにくい聴覚情報処理障害ですが、適切な支援を受けられるよう社会での認知度が広まることを願っています。